認知症を早くみつける!東大生のブログ

認知症の早期診断・早期対応政策を、地方自治体職員の方や議員の方に提案しております。その他、市民団体・認知症関連団体・企業の方と協働して、認知症啓発活動にも取り組んでいます。政策企画やマニフェスト作成、議会質問、各種啓発活動のご相談はお気軽にinfo@policym.orgまで。NPO法人政策会議が活動母体です。

認知症予防学会学術集会に行ってきました!

先日、東京都江戸川区の船堀ホールにて、第4回認知症予防学会学術集会に参加させていただきました。

この学会では、認知症予防とまちづくりーコミュニケーションの再構築」というテーマの下に、認知症の早期発見、進行遅延、認知症の方が安心して暮らせるまちづくりに関して専門家によるプレゼン、ディスカッションが展開されました。

 今回の記事では、学会で行われたシンポジウムの一部を、簡単に紹介したいと思います。(※写真はイメージです)

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■「安心して徘徊できる町」~大牟田市の取り組み~

今回紹介するのは、「認知症に安心して暮らせる理想のまちと現状」と題したシンポジウムです。
京都府大牟田市富士宮市をモデルに、「認知症患者を受容できるまちとはどのようなものか」を議論する内容でしたが、その中で取り上げられた大牟田市の取り組みは特に興味深いものでした。

大牟田市は、福岡県の最南端に位置する人口121,096人、高齢者数39,811人の市で、その高齢化率(65歳以上人口)は実に32.9%に達しています(平成26年10月1日現在)。

内閣府高齢社会白書では、2035年に日本の高齢者化率は33.4%になる(現在は25.1%)と予測されており、大牟田市は20年後の日本に近い状態にあります。

その意味で大牟田市は「課題先進地域」であり、認知症政策でも先進的な自治体となっています。

 

■地域ネットワークの構築

市では、政策の一つとして「ほっと安心(徘徊)ネットワーク」という地域ネットワークを構築しています。この取り組みの具体的な目的は以下の通りです。

  1. 認知症の人と家族を支え、見守る地域の意識を高め認知症の理解を促進していく
  2. 徘徊高齢者を隣近所、地域ぐるみ、多職種協働により可能な限り、声かけ、見守り、保護していく実効性の高いしくみの充実
  3. 認知症になっても安心して暮らせるために「徘徊=ノー」ではなく、「安心して徘徊できる町」を目指していく。

このネットワークの具体例としては「高齢者等SOSネットワーク」があります。
これにより警察署と地域の消防署や郵便局、タクシー協会などが連携して、徘徊している行方不明者を早期に発見することができる仕組みが形成されています。

認知症政策では、「普段、高齢者と接する機会がある職業従事者と、いかにして連携体制を構築していくか」が一つの大きなテーマとなっています。
というのも、彼らは、普段の何気ないかかわりの中で「高齢者の振る舞いや行動の、ちょっとした違和感」に気づきやすく、それが直接的に認知症や徘徊の早期発見に大きく寄与するためです。

最近では、銀行や郵便局などの「高齢者が利用する窓口業務」を中心に連絡体制を構築する自治体も増えてきていますが、大牟田市のような大規模なネットワークを構築している自治体は多くはありません。
認知症問題に有効な政策であることは間違いないので、大牟田市の政策を評価・改善しながら、多くの自治体が導入に動いていってほしいと思います。

 

また、大牟田市ではこれに加えて、地域住民にもこのネットワークに参画してもらうべく、徘徊模擬訓練が定期的に実施されています。

平成25年度には、2,019人の参加者がいる大規模な訓練に発展していますが、この訓練を通じて地域住民にも認知症に対する理解を深めてもらうことに成功しています。

 

大牟田市の政策は、徘徊行方不明者を出来るだけ早く安全に保護できる実効性の高いネットワークを構築するだけではなく、地域で認知症の方を見守る意識を醸成する取り組みにもなっているのです。

 

認知症と徘徊の問題。大切なのは地域コミュニティの協力と理解。

大牟田市の政策では「徘徊」という言葉が目立ちました。

徘徊は、「本人がなんらかの目的を持って、さまよい歩いてしまう」という認知症の周辺症状の1つですが、平成26年現在この徘徊による行方不明で警察に届け出があった人は約1万人と推計されており、大きな問題となっています。
「徘徊による失踪後、7年後に再開を果たした」というような例もあり、対策としては「徘徊者が遠くに行く前に、いかにして発見するか」が非常に重要です。
 
前述の通り「早期発見のための連携体制構築」などの政策が、様々な自治体で実施されていますが、大牟田市のように、さらに一歩先「地域住民のネットワークと認知症への理解を深めること」が重要だと、私たちは考えています。
 
単に、システマチックな発見体制を構築するだけではなく、より身近な生活圏(地域)において、「住民が認知症の方やその家族の理解者となり、日常生活の営みの中で温かく見守っている」という地域ネットワークをつくること。
これは、より確実な早期発見につながることはもちろんですが、同時に、地域というリソースを活かして、認知症の方が安心して生活できるまちをつくることであり、認知症の方の居場所をつくることでもあります。
 
政策をつくる本来の目的を考えれば、あくまで、政策の恩恵を享受する地域を基本にすることを忘れてはいけません。「地域」をより活かせるような、そしてその結果として地域住民がより良く生きられるような、そういった政策を実行していくことが大切なのではないでしょうか。
 
その意味では、大牟田市の目指す「安心して徘徊できるまち」とその政策は、自治体が目指すべき地域像とその手段としての政策の、一つの理想的な姿なのかもしれません。
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今回の学術集会は、聴講だけでなく、研究者や行政関係者の皆様とお話する機会もあり、非常に有意義な時間となりました。
今後も最新の事例を収集・検討・蓄積することを心だけ、提言内容の充実に努めていきたいと思います。

 

【参考・出典】

大牟田市の高齢化統計について / 大牟田市ホームページ

(2)将来推計人口でみる50年後の日本|平成25年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府