認知症を早くみつける!東大生のブログ

認知症の早期診断・早期対応政策を、地方自治体職員の方や議員の方に提案しております。その他、市民団体・認知症関連団体・企業の方と協働して、認知症啓発活動にも取り組んでいます。政策企画やマニフェスト作成、議会質問、各種啓発活動のご相談はお気軽にinfo@policym.orgまで。NPO法人政策会議が活動母体です。

完成のときは近い!? 認知症を完治させる薬は出来るのか 〜認知症治療薬の変遷とこれから〜

ごま油、筋トレ、納豆、ココナッツオイル、カレー、アロマ……

これらはテレビやネット、本などで「認知症予防に役立つもの」として取り上げられているものの一例です。

認知症に関する各種特集で、最近、とくに多く見かけるのが、以下のような謳い文句です。
 「認知症予防に効くのは◯◯である!」
 「◯◯体操をやれば認知症は治る!」
科学的に効果が検証されているものもあるようですが、これらの多くは、いわゆるプラセボ効果の域を出ないものでしょう。

病気を治すといえば、まずは薬です。では、肝心の「認知症治療薬」の現状はどうなっているのでしょうか?

 「認知症は薬を飲んでも治らないの?」
 「薬を飲んでも、症状の進行を遅延させることしかできないってホント?」

認知症に関心を持った方が、一度は抱く疑問です。

今回は、医療的観点から認知症治療薬について考えてみたいと思います。

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(Modern Medicine | Flickr - Photo Sharing!

■三大認知症には、治療薬が存在しない? ~認知症の類型~

認知症のタイプ毎に治療薬を紹介する前に、はじめに認知症を類型化してみたいと思います。
認知症の分類には様々な方法がありますが、発症の原因によって以下のように分類する事ができます。

発症の原因で分類する認知症の類型

  1. 変性性認知症(全体の約70%)…脳の神経細胞が変性・減少する事で発症する認知症アルツハイマー認知症レビー小体型認知症前頭側頭型認知症が有名。
  2. 脳血管性認知症(全体の約20%)…脳血管障害が原因となって発症する認知症
  3. その他の認知症(全体の約10%)…脳外傷や脳腫瘍、脳炎等が原因となって発症する認知症

また、これらの中でも特にアルツハイマー認知症と脳血管性認知症レビー小体型認知症三大認知症と呼ばれています。

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   (出典:メンタルナビ)

三大認知症について

参考までに、この三大認知症について、発症原因を中心に詳しく紹介したいと思います。

  1. アルツハイマー認知症…脳にアミロイドβやタウというタンパク質が塊となって凝集し、シナプスを死滅させる事が原因。唯一治療薬が存在する。
  2. 脳血管性認知症…脳血管障害(脳梗塞脳出血の多発)が原因で、血圧のコントロールや糖尿病・脂質異常症の治療が重要になる。
  3. レビー小体型認知症…大脳皮質に現れるタンパク質の塊「レビー小体」が原因だが、大脳皮質にレビー小体が蓄積される理由は解明されていない。

ここで皆さんは驚くかもしれませんが、実は、アルツハイマー認知症以外の認知症については、特に有効とされている治療薬は存在しません。
脳血管性認知症は血圧のコントロール、糖尿病・脂質異常症の治療が間接的な認知症の治療として活用されているのが現状です。
レビー小体型認知症に至っては、特化した治療薬は存在せず、アルツハイマー認知症の治療薬を使用しています。

前置きが長くなりました。それでは、本題に戻りましょう。
アルツハイマー認知症の治療薬はどのようなものがあるのでしょうか。

■日本で使用されているアルツハイマー認知症治療薬の類型

現在、日本で使用されている認知症治療薬は以下の4剤であり、全てがアルツハイマー認知症進行遅延を目的としたものです。

  1. ドネペジル(商品名:アリセプト)
  2. リバスチグミン(商品名:イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)
  3. ガランタミン(商品名:レミニール)
  4. メマンチン(商品名:メマリー)

⑴ドネペジルはエーザイが1999年に販売を開始した治療薬で、国内で最初に認可された認知症治療薬です。ドネペジルの目的は、神経細胞の神経伝達物質であるアセチルコリンを増やす事です。

⑵リバスチグミンと⑶ガランタミン、⑷メマンチンは、日本で2011年に認可された治療薬です。⑵リバスチグミンと⑶ガランタミンはアセチルコリンを増やす事を目的に、⑷メマンチンはグルタミン酸濃度を下げる事を目的にしています。


アルツハイマー型認知症、治療薬複数登場で使い分けも可能に(1/3ページ) - 産経ニュース

「根治は出来ない…」 これらの治療薬の問題点

しかし、これらの治療薬は、アルツハイマー認知症の原因だと考えられている〈アミロイドβやタウの凝集〉を防げないので、認知症を根本的に治療する薬ではない」のです。
それでは、なぜ「アルツハイマー認知症の原因は分かっている(と考えられている)」のにも関わらず、「その原因を直接解決する治療薬が存在しない」のでしょうか。

アルツハイマー認知症治療薬の開発におけるボトルネック

認知症の方の人数が急増する中、日本のみならず世界中で、認知症の新治療薬について様々な研究が行われています。
しかし、研究が結実することは少ないのが現状です。米国研究製薬工業協会(PhRMA)の報告によると、認知症の研究が進んでいるアメリカにおいて、過去20年で101もの新治療薬が開発に失敗した、という事実もあります。

では、認知症(以下、アルツハイマー認知症の事をいう。)治療薬の開発におけるボトルネックとは何なのか。
それは、認知症の病状解明が進んでいなかったため、発症前後で脳細胞がいつ、どのように変化するのかを捕捉できなかった」ことです。

認知症は脳細胞が死滅することの積み重ねで起こるため、認知症の方を観察しても「脳細胞の死滅が進行しはじめる瞬間」を見ることはできません。また、どのような人が認知症になるのかも分からなかったため、「認知症が発症する瞬間」も見ることができません。したがって、アミロイドβやタウの凝集が認知症の原因であることがわかっていても、「それがいつ始まり、どのように蓄積していくか」という、脳細胞の変化過程を研究できず、治療薬の研究開発も困難を極めたのです。


さらに、脳細胞は許容できない副作用が発生する可能性が相対的に高い事も、開発失敗の理由となっていました。

海外における、認知症治療薬に関する最新研究

しかし、近年このボトルネックは解消されました。
現在アメリカ・ワシントン大で、150人近くを巻き込んだプロジェクト「DIAN(ダイアン)研究」が進んでいます。
この研究で画期的なのは、家族性アルツハイマーの方に協力を仰いだことです。
家族性アルツハイマー病の方は、遺伝的要因により、一定年齢に達すると高確率でアルツハイマー病を発症します。彼らを観察することで、認知症発症前後で、脳細胞がどのように変化するのかを捕捉すること」が可能になりました。

観察の結果、認知症発症の25年前からアミロイドβが、15年前からはタウが蓄積しはじめていた事が明らかになりました。アミロイドβとタウは、脳に蓄積する事でシナプスを傷つけ、死滅させます。加えて、アミロイドβ・タウの蓄積とほぼ同時期に、海馬が萎縮する事も明らかになりました。

「アミロイドβとタウが脳に蓄積し、ほぼ同時期に海馬の萎縮がはじまる」という認知症発症のメカニズムを、ついに解明する事ができたのです!

現在、世界中の研究者が

  • アミロイドβの蓄積をどのように防ぐか
  • タウの蓄積をどのように防ぐか
  • 海馬の萎縮をどのように抑えるか

について研究を重ねており、イギリスではタウの蓄積を抑える治療薬が臨床試験の最終段階にあります。
早ければ2016年にも認知症を根本的に治す薬が出来るかもしれません。

今後の展望

また、近年では、前述のDIAN研究に加え、認知症の方の細胞から作成したiPS細胞を使用して治療薬を作る試みなど、様々なアプローチから認知症治療薬の研究が進もうとしています。


iPS細胞が変える“薬の常識” - NHK クローズアップ現代

今後も、最新技術を駆使することで認知症に関する人類の理解は深まっていくことでしょう。

認知症は薬を飲んでも治らないの?」
「薬を飲んでも、症状の進行を遅延させることしかできないってホント?」

確かに、認知症現時点では完治させる事はできず、病状の進行を遅延させる事しかできません。
しかし、近年の認知症研究の急速な進展で、認知症を薬で完治させられる時代が、すぐそこまで来ているといえるでしょう。

 

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私たちは2013年の12月に結成された認知症政策ロビイングチームです。東大生を中心としたメンバー7名で、認知症問題に取り組んでいます。

厚労省の推計では「2025年には認知症の高齢者が700万人になる」と言われています。高齢者の約5人に1人が認知症になるというこの事実からも、認知症というイシューが日本にとって極めて重大であることは疑いようがありません。

一方で、現在、認知症に対する具体的な政策や取り組み状況は各自治体でまちまちであり、決して十分とは言えません。そこに問題意識を持った私たちは、

「ロビイングによって、早期発見を中心とした包括的な認知症政策を、全国レベルで実現すること」

をミッションに掲げて活動しています。

現在は、全国レベルでの認知症政策展開の前段階として、地方自治体・議会への政策提言・政策提携・議会質問サポート等を行っています。
お問い合わせ・ご相談は、合同会社HPをご覧ください。

 

【参考・出典】
「iPS技術で躍進する“認知症新薬”最新事情 〈週刊朝日〉|dot.ドット 朝日新聞出版」(http://dot.asahi.com/wa/2014100800066.html
認知症と治療薬」(http://kusuri-jouhou.com/pharmacology/dementia.html
「第13回 認知症の薬の話 | 認知症ねっと」(https://info.ninchisho.net/column/psychiatry_013
「色々ある認知症の薬。新しい薬の方が効果的ってほんと? - 健康ダイエット - Yahoo!ヘルスケア」(http://medical.yahoo.co.jp/diet/column/6136/
「新たなアルツハイマー認知症治療薬と今後への展開と問題点」(https://www.jspn.or.jp/journal/journal/pdf/2012/03/journal114_03_p0255-0261.pdf
アルツハイマー病の分子病態と根本的治療を目指した治療薬の開発」(https://www.jspn.or.jp/journal/journal/pdf/2013/01/journal115_01_p0032-0040.pdf
アルツハイマー認知症、治療薬複数登場で使い分けも可能に(1/3ページ) - 産経ニュース」
http://www.sankei.com/life/news/140617/lif1406170022-n1.html
認知症にはどんな種類があるの? | 理解する | 認知症 | メンタルナビ」
http://www.mental-navi.net/ninchisho/rikai/shurui.html
認知症予防財団」
http://www.mainichi.co.jp/ninchishou/topics/2011_10_1.html
「日本におけるドラッグラグの現状と要因 4.考 察」
http://www.lifescience.co.jp/yk/jpt_online/review0906/index_review4.html
NHKスペシャル アルツハイマー病を食い止めろ!(2014年1月23日放送)」