高齢者同居率6%!? 北欧流認知症介護に迫る。 【海外事例①:デンマーク】
「この政策案って、海外のものも参考にしてますか?」
「海外での認知症政策はどんなものがあるの?ぜひ教えてほしい」
私たちがヒアリング・ロビイングを行う過程で、「認知症政策の海外事例」についてご質問いただくことがよくあります。
意外なことかもしれませんが、行政担当職員や医療・介護関係者でも「国内事例には精通しているが、海外事例は詳しくない」という方は少なくありません。
この原因の一つには「日本において、手軽に参照できる海外事例資料」が豊富ではないことがあります。
そこで今回から「認知症政策海外事例シリーズ」と銘打って、海外の興味深い事例を定期的に紹介していきたいと思います。
第一回記事は世界一幸福な国とも言われる『デンマーク』を取り上げます。
※注意
当然、日本と諸外国を単純比較することは出来ません。また、認知症分野では日本は「課題先進国」の一つであり、日本を参考に実行している海外政策も少なくないと考えられます。それを踏まえて、このシリーズでは「日本には見られない興味深い事例」を中心に紹介します。
■余生は「施設で過ごす」のが常識。デンマークの高齢者の暮らし
「デンマークってどんな国ですか?」
そう聞かれると、答えに窮する人は多いのではないでしょうか?
まず最初にデンマークのデータを確認したいと思います。
基本データ
面積:約4.3万平方キロメートル
人口:約562万人
首都:コペンハーゲン(人口約70万人)
高齢者率:約15.4%(日本は約25%)
高齢者同居率:約6%
認知症診断数:現在80,000人ほど。毎年約15,000人が新たに認知症と診断される。
GDP:3,149億ドル
※出典:外務省(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/denmark/)
この数値を日本と比較すると、面積は九州と同程度、人口は東京の半分に満たないくらいです。単純な国家規模で言うならば、日本よりも大分小さな国と言えるでしょう。
一方で、デンマークは世界一幸福な国とも言われています。消費税25%、所得税・地方税50%など、非常に高い税率と引き換えに、国民は手厚い福祉サービスを無料で享受しています。
さて、基本データの中で特に注目したいのがこの数値です。
高齢者同居率 約6%
これは「65歳以上の親とその子供の同居率」を表しますが、日本の同居率50%と比べても、非常に小さいことが分かります。
つまり、デンマークでは余生を施設で過ごす老人が圧倒的に多いのです。
そんなデンマークの認知症政策事情を見ていきましょう。
認知症ユニットは、「ケア付き認知症高齢者住宅」であり、高齢者が施設を「自宅」として利用しながら、専門職による手厚いケアを受けることが出来るのが特徴です。
現在のデンマークでは、老人ホームに代わる高齢者住宅建設を推進する中で、この認知症ユニットに特に力を入れており、新規建設計画の4割程度を占めています。
住環境をはじめとした物理的環境の変化は、認知症高齢者の混乱を招くケースが多いため、いかにして環境的ストレスを抑えながらケアしていくかが重要です。とはいえ、特に大規模施設では、認知症の以外の高齢者も多く利用されるため、「自宅での日常的な生活環境を維持しつつ、認知症に適した介護を提供する」ことは困難です。
■記憶と五感を刺激する生活環境を作る。デンマーク流認知症介護
- 最新式のデザイン家具ではなく、昔からある手作りの家具を置く。
- トイレを旧式の便座にする。
- 過去の自分の職業や仕事に関係のある道具や写真を飾る。
- 季節にあわせて花や収穫物、名産品などを飾る。
- 照明やミラーボールを利用して、視覚的に幻想的な空間を作り出す。
(デンマークの高齢者施設の様子。画像引用元:http://maya-net.jp/blog/3642.html)
(高齢者に懐かしさを感じさせる古い家具や道具が、部屋の中や廊下に置かれている。画像引用元:http://www.dcnet.gr.jp/retrieve/kaigai/pdf/de09_care_03.pdf)これらのモノがきっかけで認知症の方が会話が始めることも多いようです。
ゆかりの品で昔の思い出を回想してもらったり、景色、匂い、触った感覚を楽しんでもらったりすることで、生活環境から五感を通じて「安心感」と「脳への良い刺激」を高めていくのです。
日本においても「回想法」や「メモリアルボックス」など、高齢者の記憶や感覚の回顧を活かした治療方法がありますが、このような考え方を「治療・療法」としてではなく、「高齢者の身辺環境の一部として導入・整備するもの」として活かしている点で、非常に面白い取り組みと言えます。
■デンマークの認知症政策は日本へ導入できるのか。
最後に、簡単にデンマークと日本を比較して、デンマークの認知症政策の導入可能性を考えてみたいと思います。
結論から言うと、「デンマークの”高品質・低負担”の福祉政策は社会保障に対する潤沢な資金ゆえになせるものであり、日本が公費で同様の政策を行うことは難しい」です。
社会保障費を見ると、デンマークは社会保障費の対GDP比が約30%(世界第2位)、日本が約24%(世界第15位)です。
高齢化率では、デンマークが18.4%、日本が25.1%です。
デンマークでは今後も人口が増えていくと言われているので、これらを踏まえると、デンマークは日本に比べて「社会保障にお金を払ってくれる人口が多く、そのお金をかける人口(高齢者)が少ない」といえるでしょう。
これに高税率も加わって、デンマークは上述のような政策を実現できるのです。
資金が足りない日本で同様の政策を行うとするならば、「民間が高品質低価格のサービス提供を担っていく」ことが重要になってくるでしょう。
しかし、民間企業の視点からだと、現状では「高品質-高価格」のものしか旨みがありません。
介護市場自体は今後も確実に拡大する成長市場ですが、サービス提供にかかる各種コストの圧縮が難しく、「品質を保ったまま価格を抑えることが出来ない」ことが事情にあるようです。
日本において、認知症ユニットのようなサービスを利用できるのは、残念ながらまだまだ先になりそうです。
私たちは2013年の12月に結成された認知症政策ロビイングチームです。東大生を中心に、メンバー7名で認知症問題に取り組んでいます。
厚労省の推計では「2025年には認知症の高齢者が700万人になる」と言われています。高齢者の約5人に一人が認知症になるというこの事実からも、認知症は、日本にとって極めて重要なイシューであることは疑いようがありません。
一方で、現在、認知症に対する具体的な政策や取り組み状況は各自治体でまちまちであり、決して十分とは言えません。そこに問題意識を持った私たちは、
「ロビイングによって、早期発見を中心とした包括的な認知症政策を、全国レベルで実現すること」
をミッションに掲げて活動しています。
現在は、全国レベルでの認知症政策展開の前段階として、地方自治体・議会への政策提言・政策提携・議会質問サポート等を行っています。
お問い合わせ・ご相談は、合同会社HPをご覧ください。
トリニティネットワーク合同会社|NPO法人政策会議設立準備室 on Strikingly
【参考・出典】
・イギリス・デンマーク高齢者ケア視察レポートその6;デンマークの認知症ケア最前線< | 前衆議院議員 山崎まや公式サイト
・「デンマークの認知症ケア動向 Ⅲ」