認知症を早くみつける!東大生のブログ

認知症の早期診断・早期対応政策を、地方自治体職員の方や議員の方に提案しております。その他、市民団体・認知症関連団体・企業の方と協働して、認知症啓発活動にも取り組んでいます。政策企画やマニフェスト作成、議会質問、各種啓発活動のご相談はお気軽にinfo@policym.orgまで。NPO法人政策会議が活動母体です。

認知症の新たな治療薬―認知症ロボット

昨年11月、東京・六本木で「G8認知症サミット日本後継イベント」が開かれ、認知症の「新しいケアと予防のモデル」について、活発な議論がなされました。このイベントでは、民間企業の取り組みに焦点を当てた会合も開かれ、対話型ロボットの認知症対策への活用可能性など様々な報告がなされました。
また、2015年2月には「高齢社会を支えるコミュニケーションロボットの可能性と課題」をテーマに、東京大学シンポジウムが開かれています。
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近年、急速な高齢化と介護人材の不足に悩まされている認知症介護の現場において、ロボットを利用した認知症治療法に注目が集まっています。 
人間の言葉をよく理解し、多彩な表情を見せながら、積極的にコミュニケーションをとることができる介護ロボットは、「新たな介護士」として、物忘れやボケ防止、認知症予防やセラピーなどに大きな効果を発揮しています。
今回は、対人療法でも、治療薬でもない、第三の選択肢としての「認知症ロボット」について迫っていきます。

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■アザラシ、少年… 単なる人型にはとどまらない認知症ロボット

そもそも、認知症ロボットとはどのようなものなのでしょうか?
認知症ロボットは介護ロボットの一種であり、そのほとんどが、日常生活において、人とコミュニケーションすることにより、情報提供、話し相手等のサービスを行う「コミュニケーションロボット」に分類されます。

その機能は、コミュニケーションを通じた脳の活性化による「認知症の予防・症状改善」、会話の中での「認知症の検査」、毎日の予定や活動(食事・入浴など)の時間を知らせる「記憶の支援」、体操指導による「体力維持」、家内に設置されたセンサーと連携しての「見守り」など多岐にわたっており、製造会社各社が開発競争にしのぎをけずっています。

サミットなどでも紹介され、現在多くの現場で活躍しているコミュニケーションロボットをタイプ別に分けると、以下のようなものが挙げられます。

(1)なでたり声をかけたりすると可愛らしい仕草を見せる動物型ロボット
    Paro
(2)声や上半身を作りこんで会話に重点を置いた人型ロボット
    Pepper,PePeRo
(3)会話に加えて全身の関節が動き、踊りや体操もできる人型ロボット
       NAO,うなずきかぼちゃん,Parlo
 

■少年、アザラシ、etc... 多種多様な認知症ロボット

それでは、現在販売されている代表的なロボットの機能を詳しく見ていきましょう。

Paro(大和ハウス工業株式会社)

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・アザラシ型のロボットで、ギネスブック(2002年)にも認定されている「世界で最もセラピー効果があるロボット」
・多数のセンサーや人工知能の働きによって、動物らしい動作や感情表現をする
・アメリカではFDA(食品医薬品局)により医療機器として承認されており、自閉症の子供たちや認知症の高齢者などのセラピーに用いられている。 

Pepperソフトバンク株式会社)

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・世界初の感情認識パーソナルロボット
・表情と声からその人の感情を察する「感情認識機能」が備わっている。
・インターネット上の様々な情報に自らアクセスして、最新のニュースや天気などを教えてくれる
・新しいアプリをインストールすることで、機能が増えていき、クイズで認知症の症状の有無を簡易診断したり、質問や会話を通じて予防を行なったりできるため、主に介護施設への導入が進められている。

PePeRo(NEC

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・小型の人型ロボット
音声認識や顔認識、音声合成機能を有し、人の顔を見分けて話しかけたり、他の人から預かったメッセージを伝えたりする
・住居内の家電の制御も行うこともできるため、一人暮らしの高齢者の生活支援や遠隔健康相談などに優れている

NAO(Aldebaran)

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 (画像引用元:http://www.revast.co.jp/service/humanoid/type03.html
・小型の人型ロボットでPepperの兄弟機。
・相手の顔を認識して、名前を呼びながらコミュニケーションをとることが出来る。
・動画やカメラ撮影機能が備わっており、NAOと一緒に楽しむ自分の姿を記録することが出来る。
・日付やスケジュールの伝達をしてくれる。
・ダンスの指導から九九の学習補助まで、年齢を問わないサポート機能を持っており、認知症だけでなく、自閉症うつ病にも利用されている。

うなずきかぼちゃん(ピップ株式会社)

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(画像引用元:http://shop.msg-navi.com/?mode=f18
・高齢者に「可愛らしい孫」を想起させるような外見。
・人形のような感覚で一緒に遊ぶことができる。
・1年を通じて、季節や時間に合わせた会話や歌でコミュニケーションをとってくれるので、部屋にこもりがちな高齢者が季節感や時間の感覚をつかむのに役立つ(季節感を感じさせることは、認知症進行遅延にも効果がある)。

Parlo(富士ソフト株式会社)

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 ・小型の人型ロボットで、人工知能を持ち、自ら話しかけたり、相手の顔や声を認識し、記憶することができる
・インターネット接続機能があり、天気やニュースなどを通知する
・人の声に反応して、踊ったり会話をすることができるため、介護施設の高齢者の話し相手、遊び相手として、特にレクリエーションの分野で人気が高い
 

認知症ロボットを使った、ロボットセラピーの効果。

多種多様な認知症ロボットが存在することが分かりましたが、具体的にはどのような効果があるのでしょうか?
ここでは、動物型、人型からそれぞれParoとPepperを例にあげて説明したいと思います。

動物型ロボットの効果 ~Paroの事例~

人が動物と触れ合うことで、楽しみや安らぎを得たり、ストレスが緩和されることをアニマルセラピーといいます。大きく分けて3つの効果があると言われており、各種精神病の治療にも活用されています。(心理的効果生理的効果社会的効果
 心理的効果=笑顔や同期の増加、鬱の改善等
 生理的効果=ストレス、血圧の低下等
 社会的効果=コミュニケーションの増加等
とはいえ、高齢者にとっては、飼育の手間や衛生上の問題から、実際の動物と触れ合うことは難しいのが実情です。これらの問題を解決し、アニマルセラピーを活用しようとするのが、動物型ロボットを使った「ロボットセラピー」です。

ここでは、動物型ロボットの一つ「Paro」を導入した老人介護施設での実例をあげてみます。
2011年10月に、青森県内の老人保健施設で「Paro」2体が導入されました。対象者は50人の入所者。個人に「Paro」を提供し、それぞれの反応を観察しました。結果、寝たきりの方でも、Paroを抱こうとする自発的な行動が見られ、失語症が軽減された例もあったといいます。入所者全体を通して、精神的にも安定し、入居者同士の交流やスタッフとのコミュニケーションにも予想以上の効果が見られました。

人型ロボットの効果 ~Pepperの事例~

癒し効果の高い動物型ロボットに対して、人型ロボットは、より多種多彩な機能を搭載しており、本当の人間のように楽しくコミュニケーションをすることが出来るのが大きな特徴です。
 
pepperはロボット事業を手がけるソフトバンクロボティクス(東京、港区)が開発したもので、胸部についたタブレットに図形の数を数えるなど簡単なクイズを表示します。様々な風景を写しながら、子供の頃のことを聞くなど、過去を思い出させるような質問もだします。常時インターネットに接続しているため、最新の情報を相手に伝えることが可能で、家族とのコミュニケーションのきっかけを増やすことで、認知症の進行を遅らせる効果が期待されています。

■介護ロボット市場におけるこれからの課題と展望

さて、これまで認知症ロボットについて紹介してきましたが、マクロ的に見て、認知症ロボットの市場は今後どうなっていくのでしょうか?
矢野経済研究所が発表した「介護ロボット市場に関する調査結果2013」によると、2012年度の介護ロボット市場規模は約1億7000万円となっているそうです。現状はまだまだ普及が進んでいないと言わざるをえませんが、今後は機能向上やコストダウンが進み、2020年度には349億8000万円、実に300倍の市場規模に急拡大すると予測しています。
では、今後の介護ロボット普及を図るうえで、その障害になりうるポイントには何があるのでしょうか?
 
①介護ロボットの価格が高い。
介護用ロボットは大量生産が難しいため、ロボット一台にどうしても費用が掛かってしまい、購買価格が高額になります。資金繰りに余裕がある介護施設は少ないため、導入の大きな障壁になりえます。
(例えば、「Paro」は約35万円、高齢者福祉施設向けのビジネスシリーズ「Palro」の価格は67万円となっています。)

 ②導入効果の評価手法が未整備。
ロボットセラピーのような新しい分野では、定量的・定性的な効果の判断基準が未だ確立されておらず、そもそも効果の可能性さえ確かめることが難しいといわれています。また、現状では、各導入施設でどのような成果が出ているかなどの情報がほとんど共有されていないため、費用対効果の観点から、介護施設も導入に踏み切るにあたって二の足を踏んでしまうようです。
 
 ③安全性の確認の難しさ
介護用ロボットは産業用ロボットとは大きく異なり、直接人間の体に触れることになるので、力の制御不足や素材の問題で、大きな事故につながる可能性があります。
そのため産業用ロボット以上に「現場」での試運転が重要になってきますが、ロボットに対する抵抗感や、介護施設の従業員の知識不足のため、安全性の現場検証に協力を得られる介護・福祉施設が限定されています。
 
 以上の課題の解決のために、今後必要となる取り組みとして
 ・介護ロボットの保険対象拡大
 ・介護ロボットに関連した安全基準を定めた法律等の制定
 ・国、自治体と介護施設との提供などによる実証実験の場の確保
などをあげることができるでしょう。
 
有効に活用すれば、現代、日本が抱えている、介護福祉現場での人材不足を解決する大きなきっかけとなる認知症ロボット。本格的導入のために、国を挙げた政策が期待されます。 
 
 

NPOを中心に地域が一体に!日本からも視察が続々訪れる、街をあげた認知症政策とは?【海外事例③:ベルギー(ブリュージュ)】

こんにちは。
今回は、
デンマーク・ドイツに続く「認知症海外事例シリーズ」第三弾をお送りします。
今回取り上げるのはベルギーの小都市ブリュージュです。世界遺産の街として有名ですが、ここではNPOを中心に地域が一体となるという、
日本では見られない形の認知症対策が行われているのです。このスタイルを取り入れようと、日本の地方自治体からも多くの視察団が派遣されています。
世界でも珍しい、ブリュージュNPO主体の認知症政策に迫ります。

認知症に優しい街、ブリュージュ

まずは、ブリュージュがどんなところなのかを見てみましょう。

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画期的なアイデアから国家戦略へ 市民の憩いの場「認知症カフェ」とは? 

皆さんは「認知症カフェ」をご存知でしょうか?
認知症カフェは、認知症の方やその家族、介護・医療の専門家、地域住民が集い、交流や情報交換を行うカフェです。
最近では、国家戦略(新オレンジプラン)でその普及が盛り込まれたり、NHK認知症カフェを舞台にした長期キャンペーンを実施したりするなど、新しい認知症対策の1つとして大きな注目を集めています。
認知症カフェは、もともとイギリスやオランダなど福祉先進国で生まれたアイデアで、日本国内には28施設が存在します。(2013年現在)
 
認知症の方やその家族だけでなく、地域や社会にも良い影響を与えると言われるこの取り組み。
今回は、この「認知症カフェ」にスポットをあてます。 

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