就活さえ出来ない…~大学生の日常・将来を奪いうる若年性認知症と親の介護~
システムエンジニアを志していた、大学生のAさん。しかし、彼は就職活動も満足に行えずに、その夢を断念することになりました。
突然、彼の"父親"を「若年性認知症」が襲ったのです。
Aさんは卒業後も就職せずに父親の介護におわれることになりました。
親の介護で未来を奪われる若者 ある20代の場合 :日本経済新聞
これは、上記の日経新聞記事で取り上げられた「親の介護のために未来を奪われてしまった大学生」の実例です。
「これからの高齢社会を支える若者こそ、認知症問題に関心を持ち、正しく理解することが重要だ!」
私たちはこれまで行政・医療・介護関係者の方々を中心に、50件以上のヒアリングを行ってきましたが、多くの方がこうおっしゃっていました。
これまで「超高齢社会到来に伴う認知症問題の深刻性」や「認知症の早期発見の重要性」をお伝えしてきましたが、やはり「自分に直接関係する人・事」に惹かれやすい若者にとって「認知症は高齢者の病気」であって、当事者意識を持って考えることは難しいというのが事実です。
そこで今回は「若年性認知症」を取り上げ、「認知症問題は、若者の日常・将来にも影響を与えうる」ということをお伝えしたいとおもいます。
■4万人近い患者数。若年性認知症の症状とは
若年性認知症は、分かりやすく言えば「65歳未満で発症する認知症」のことです。平均発症年齢は51.3±9.8歳と、50代で発症することが多いですが、20代・30代での発症例も報告されています。男女問わず、まさに「働き盛りの年齢」「家庭を支える年齢」の人々が発症しているのです。
厚労省によれば、平成20年現在で全国に38700人の患者がいると推計されていますが、「自覚がなかったり受診していなかったりといったケースを考えると、更に多くの患者がいるのでは?」と主張する専門家もいるそうです。
若年性認知症の基本的な症状は高齢者の認知症の症状(過去記事)とほぼ同様です。
初期症状としては「物忘れ」が50%、次いで「行動の変化」が28%となっています。具体的には、出社が上手くできない(迷う、徘徊する等)、予定・用事を忘れる、細かいミスが続く、礼儀に欠ける行動をする、オシャレに無頓着になる、などが挙げられるでしょう。
■「働き世代だからこそ…」若年性認知症の問題性
では、若年性認知症と高齢者の認知症の違いは何なのでしょうか?大きく4つが挙げられます。
①進行が早い
- 若いうちに発生する認知症ほど、その進行が早くなるといわれています。
②家庭に対する経済的な負担が大きい。
- 若年性認知症は、女性と比べて男性の発症割合が大きいとされています。休職・退職に追い込まれてしまうケースが非常に多く、家庭の収入源が絶たれることで、家計が厳しくなります。子供が未成年の家庭では、養育費の支払い等の問題も出てきます。
- 実際に、厚労省の生活実態調査では若年性認知症発症後7割が収入が減ったと回答しています。
③介護する家族(特に配偶者)の負担が大きい。
- 「夫(妻)の介護をしなければならない」「仕事で以前にも増して稼がなければならない」「高齢者である親も認知症発症リスクを抱えている」など、配偶者にかかる負担は、通常よりも圧倒的に大きくなります。
- Aさんのように、母親だけでは介護が十分に行えず、学生や就職した子供でさえも、介護に多くの時間を割く必要があるというケースもあります。
- その介護負担の大きさを示すように、厚労省の調査で、家族介護者の約6割が抑うつ状態であると判断されています(ここには、高齢者への家族介護も含まれます)。
④支援制度の整備や社会の理解が進んでいない。
- 現在の介護保険制度は基本的には高齢者を対象にしているため、若年性認知症の人は「保険そのものが適用されない」、もしくは仮に適用されても「サービスが高齢者向けであることや、若さゆえの身体能力の高さを理由に、施設利用を断られる」というケースが見られます。
- また会社などでの理解が進んでいないために、誤解や偏見などで、仕事や人間関係に必要以上の悩みを抱えてしまうこともあります。
■大きすぎる、家族の負担。若い子供が介護することも。
前項でもお伝えしたように、若年性認知症の方の介護にあたっては、家族の負担は大きいものがあります。そしてその中で「若い子供が介護をする」ことも、稀なケースではなくなってきました。
実際に若者の介護を取り巻くマクロ環境を見ても、それがよく分かります。
例えば、厚労省の平成22年度国民生活基礎調査によれば、「介護が必要な人が40~64歳の場合、介護する人が40歳未満であるケースは14.5%」もありました。
また、以下のグラフは「ほとんど終日、同居人の介護を行っている人の構成」を表したものですが、実に45%が子の世代の介護者であることが分かります。
更に、2011年現在で一人親の家庭(つまり、本来であれば介護者の第一候補となりうる配偶者がいない家庭)は146万世帯もあると推計されており、このことからも、「子供が介護を担う」状況は稀であるとは決して言えません。
もはや、若者が介護をすることは他人ごとではなくなってきているのです。
■大事なのは早期発見。そして、若年性認知症の方への理解。
では、深刻な若年性認知症を回避するにはどうすればいいのでしょうか?
やはりこれも早期診断・早期対応に尽きます。
現在、若年性認知症のチェックリストも複数存在していますし(あなたも今すぐチェック! 若年性認知症のチェックリスト - NAVER まとめ)、厚労省では専用の相談窓口として若年性認知症コールセンターを設置しています。
「私、最近、もの忘れが多くなったかも」、「お父さん、前と性格が変わった気がする」など、若年性認知症が少しでも疑われる場合は、すぐに相談しましょう。これを機に、親との積極的なコミュニケーションを心がけるのもいいかもしれませんね。
もちろん、若年性認知症そのものへの正しい理解と、それに基づいた、認知症の方に対する適切な接し方をしていくことも非常に重要です。
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私たちは2013年の12月より、「ロビイング」を通じて、この認知症問題に取り組んでいます。
現在、認知症に対する具体的な政策や取り組み状況は、各自治体でまちまちであり、決して十分とは言えません。そこに問題意識を持った私たちは、
「ロビイングによって、早期発見を中心とした包括的な認知症政策を、全国レベルで実現すること」
をミッションに掲げて活動しています。
現在は、全国レベルでの認知症政策展開の前段階として、地方自治体との提携・政策提言を進めています。
この度、NPO法人を設立いたしました。法人HPも是非ご覧ください。
トリニティネットワーク合同会社|NPO法人政策会議設立準備室 on Strikingly
【参考・出典】