「世代間論争を超えて…」 ~元厚労相 長妻昭氏との面会報告~
先日、永田町の議員会館にて、元厚生労働大臣で現在衆議院議員5期目を務めている、長妻昭氏と、面会を行いました。
この面会では、私たちの活動の説明に加え、チームの最終目標である「国政レベルでの認知症政策の実現」を達成するにあたって、私たちの考える認知症政策案や活動方針について、長妻氏からアドバイスを頂きました。
長妻氏は「非常に面白いプロジェクトだ」と、私たちの活動を応援してくださると同時に、厚労相としての経験も踏まえながら福祉政策に関する意見をお話ししていただき、大変実り多い時間となりました。
今回の記事では、長妻氏との面会での内容を簡単にご紹介したいと思います。
(長妻氏と当プロジェクトメンバーでの一枚)
●年間なんと10万人近く。大量の介護離職者の存在。
まずは、私たちも重点的に取り組んでいる「福祉政策・福祉問題」に関する議論が行われました。
その中で、長妻氏が指摘していたのは「介護離職の多さ」でした。
介護離職とは、家族の介護を理由に離職することを指しますが、近年、その件数のの多さが問題になっています。
総務省統計局の「平成24年就業構造基本調査」によると、近年、毎年10万人近くの就業者が、介護・看護を理由に前職を離職しているという事実があります。
(総務省統計局「平成24年集合構造基本調査」73ページより)
この「介護離職」を生み出す一つの大きな要因の一つとして「深夜介護」があると、長妻氏は言います。
実はこの深夜介護が強いられるのは、認知症介護である場合がとても多いのです。「独立行政法人 労働政策研究・研修機構」の調査でも”認知症介護にともなうストレスや深夜介護の疲労から介護者が体調を崩し、仕事の能率が低下していること”が明らかになっています。
認知症の方が夜なかなか眠らない、深夜徘徊を始めてしまうなど、その苦労が、介護離職せざるを得ないほど大変なものであることは容易に想像できると思います。
福祉政策全体は勿論ですが、認知症政策を考えるにあたっても、この介護離職問題に対して正面から取り組んでいくことが、非常に重要であるようです。
●福祉政策にも長期的・定量的な分析を! ~かえって高くつく福祉政策~
この介護離職に関連して、長妻氏は介護・福祉政策立案における、「長期的・定量的な分析の重要性」を教えてくださいました。
現在の国の医療介護総合推進法案を例にとって考えます。
この法案では、以前まで「要支援事業」であった事業の一部が地域支援事業になりました。※地域支援事業:介護保険財源を使い、市町村単位で取り組む事業。
この狙いには、各地域の事情に合うより効果的かつ多様な介護事業を展開すること、国として使う予算の削減などがあると考えられますが、一方で、国の直接的支援の減少や、中・重度患者へのサービスの重視・強化に伴って、認知症の方の家族の方の介護の負担が増えてしまい、介護離職者が増えてしまうということが予想されます。
これは、コスト削減の観点から考えても、「要支援事業→地域支援事業」の移行によって、約1700億円のコスト削減に繋がる一方で(長妻事務所の試算)、介護離職の増加によって全体にかかる費用はかえってマイナスになってしまう可能性があります。
政策にはもちろん一長一短があります。これはあくまで一例ですが、やはり「国政レベルでの福祉政策を考えるのであれば、定量的な分析に基づいた、長期的な視点を持つことが重要である」とのアドバイスを頂きました。
●最後に
以上が、面会内容の簡単な紹介となります。
長妻氏からは、最後に「若者が、世代間の論争(高齢者に医療費とられて若者は不幸だ、など)を乗り越えて介護問題を取り上げているのはとても重要なことであるし、更にロビイング活動までしているというのは、とても面白い!」とのお言葉を頂きました。
今回の面会を機に、多くの方々のご支援・ご協力に感謝するとともに、改めて気を引き締めて活動に臨んでいきたいと思います。
私たちは今後も、「学生だから中途半端でも許される」などの甘えは一切排し、具体的な問題解決に対してアクションをとり続けていきます。
今後も東大認知症プロジェクトチームをどうぞよろしくお願いします。
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【長妻昭氏プロフィール】
昭和35年6月 練馬区に生まれる。慶應義塾大学法学部法律学科卒。
日本電気株式会社、日経BP社を経て、平成12年6月に衆議院議員初当選。その後厚生労働大臣、衆議院厚生労働委員長などを歴任し、現在衆議院議員5期目。
【出典】
・総務省統計局(2014.8.3)「平成24年就業構造基本調査」(http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/pdf/kgaiyou.pdf)
・地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案の概要(2014.8.3)(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/186-06.pdf)
・独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2014.8.3)「仕事と介護の両立支援の新たな課題 ―介護疲労への対応を― 」(http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2013/documents/DP13-01.pdf)