画期的なアイデアから国家戦略へ 市民の憩いの場「認知症カフェ」とは?
皆さんは「認知症カフェ」をご存知でしょうか?
■コンサートやパソコン教室も!認知症カフェの特徴とは?
そもそも、認知症カフェとはどんなものなのでしょうか。
厚労省の文書では以下のように定義されています。
認知症カフェでは、通常のカフェと同様に飲料や茶菓子が提供され、集まった人々が自由に談笑します。
場所によっては、音楽コンサートやパソコン教室といったアクティビティを積極的に取り入れるなど、工夫をこらした運営を行なっているようです。
また、カフェの利用者の割合を見てみると、一般市民が比較的多く利用していることが読み取れます。カフェ支援スタッフの約半数がボランティアや民生委員、家族会、認知症サポーターといった専門職以外の人々で構成されている事実も考慮すると、認知症の人と市民との活発な交流が実現できる場所としても、非常によく機能しているといえるでしょう。
■カフェを拠点に、多方向へ効果あり! ~認知症カフェのメリット~
以上のように、様々な特徴のある認知症カフェ。
では、この認知症カフェの取り組みは、具体的にどんな効果があるのでしょうか。
対象毎に、波及する効果をまとめてみました。
認知症の人への効果
カフェでの交流が、自分らしいイキイキとした生活をもたらし、認知症の進行遅延に貢献するほか、医療・行政の適切な対応へのパイプとなる。
<心身を満たすことによる効果>
- コーヒーを飲んで一服することで認知症の人が笑顔になれる。
- 様々な人と出会うことで生きがいを感じたり、懐かしいものと出会いで症状の進行を緩やかにできる。
- 民家などを利用した親しみやすい空間でリラックスできる。
<社会とつながることによる効果>
- 社会的つながりや役割を得て、イキイキと生活できる
- 塞ぎがちだった人が他者との会話や趣味的活動を通じて、まだ自分にも出来ることがあるということを発見し、自分らしさを取り戻せる。
- 認知症の人が社会と接点を持つ場となり、「地域の中で暮らし続けられる」場となっている。
<認知症の人とケアが出会うことによる効果>
家族に対する効果
<別の家族や専門職と出会うことによる効果>
- 境遇を同じくする家族同士が出会うことで、「自分だけがこんなにつらいわけではないこと」に気づき、安心できる。
- 相談相手として、他の家族から実体験の伴った介護の工夫を学ぶことができる。
- 専門職に直接、介護サービスに関する情報を教えてもらったり、相談したり出来る。
支援する市民ボランティアへの効果
支援する医療、介護専門職への効果
地域、地域住民への効果
- 地域の文脈で、認知症や認知症の人をより身近にとらえる機会となる。
- 住民同士が、世代や障害を超えて生活の一場面として交流し、横のつながりが形成される場となる。
- 地域包括支援センターや社会福祉協議会など関係団体に活動が伝わることで、地域のネットワーク作りや連携強化につながる。
- 認知症の人の入院や入所を防ぎ、地域の中での暮らしを維持するという意味で、地域に対して中長期的な経済効果がもたらされる。
いかがでしょうか?認知症カフェが存在することによって、多方向にたくさんのメリットが生まれるのです。
■資金、人材、事業モデル… 課題が山積の認知症カフェ。
ここまで読むと、認知症カフェの取り組みは良いことづくめであり、どんどん増やしていけばよいように思えますが、もちろん課題も多く残っています。
①運営資金の不足
認知症カフェの主な財源は自己資金、利用者負担金、補助金によって賄われているのですが、いずれも少額であり、家賃等の固定費が多くかかるカフェの維持・運営には不十分な金額です。また、外国と比べて補助金の整備も進んでいません。
「コーヒー代みたいな利用者負担金は利益になるじゃん?儲かってるんじゃないの?」と仰る方もいるかもしれませんが、認知症カフェで提供される商品は利益を度外視していることが多く、顧客が多いとしても大した利益にはなりません。例えば、ある認知症カフェはコーヒーを100円で提供しています。「認知症の人と家族、地域住民、専門職等の誰もが気軽に参加でき、交流できる場」を保つためのジレンマを抱えているのです。
②人材確保、育成の難航
現在、認知症カフェの従業員は大半がボランティアスタッフです。
善意により無償で働くスタッフがいるのは大変素晴らしいことですが、当然これらのスタッフは普段別に抱える本職で働いているので、人員不足でカフェの開催頻度が低くなるという問題が発生しています。かといって、賃金を支払ってスタッフを確保することは、前述の逼迫した財政状況では非現実的です。財政状況がネックとなり、十分な開催頻度を可能にする人材確保が難航しているのです。
また、人材の確保だけでなくその育成も課題となっています。
認知症カフェのスタッフは一定の研修が必要とされていますが、現在、研修には統一された基準がなく、各店舗にほぼ任されている状況です。
そのため、「実質は単なるカフェ状態」となってしまうことがあるなど、店舗ごとのスタッフの習熟度の差が問題となっています。
③学習のための事業モデルの不足
実際にカフェ店舗を運営する、ということになったらあなたはどうしますか?
全て一から始めるのは不安ですし、まずは先駆者がどのように同業種の店舗を運営してきたかチェックすると思います。
さらに、国内の認知症カフェの運営実態をまとめた資料も存在しません。
■協会が先導し、補助金も豊富。充実した海外の認知症カフェ。
認知症カフェは、実は海外で始まった取り組みです。
海外では、欧州を中心に国家レベルで認知症カフェ施策を進めており、参考にすべき点が多くあります。
ここでは、特に先進的なオランダのアルツハイマーカフェの事例を取り上げたいと思います。
そのため、各カフェの運営を、手引きに従って行うことができ、国内の全ての認知症カフェで、統一的な高品質のサービスを受けることができるようになっています。
さらに、この協会はコーディネーター教育も行っており、各カフェでは訓練を受けたスタッフが常駐してサービスを提供しています。
他の海外事例として、イギリスにはMemory Cafeという認知症カフェが存在します。
イギリスでも同様にアルツハイマー協会が存在し、A guide to setting up a memory cafeというガイドマップを作成しています。
このガイドマップに則り、国内全体の認知症カフェで同様のサービスを実現しています。
■これからの認知症カフェ その発展のために
ここまで、認知症カフェを様々な側面から見てきました。
日本の認知症カフェがこれからさらに普及していくにはどんなことが必要なのでしょうか?
やはり、海外事例をベンチマークとするのが、最重要でしょう。
認知症政策国家戦略である新オレンジプランでは「2018(平成30)年度からすべての市町村に配置される認知症地域支援推進員等の企画により、地域の実情に応じ実施」と言及されていますが、具体的に、推進員がどのように進めていくのか、そのためにどのような法整備がなされるのかに注目していきたいと思います。
認知症の方々がより暮らしやすい日本を実現するための有効な施策として、私たちも政策提言の中にうまく盛り込んでいきたいと思います。
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私たちは2013年の12月に結成された認知症政策ロビイングチームです。東大生を中心に、メンバー7名で「ロビイング」を通じて認知症問題に取り組んでいます。
厚労省の推計では「2025年には認知症の高齢者が700万人になる」と言われています。高齢者の約5人に一人が認知症になるというこの事実からも、認知症というイシューは日本にとって極めて重要な課題であることは間違いありません。
一方で、現在、認知症に対する具体的な政策や取り組み状況は各自治体でまちまちであり、決して十分とは言えません。そこに問題意識を持った私たちは、
「ロビイングによって、早期発見を中心とした包括的な認知症政策を、全国レベルで実現すること」
をミッションに掲げて活動しています。
現在は、全国レベルでの認知症政策展開の前段階として、地方自治体・議会への政策提言・政策提携・議会質問サポート等を行っています。
お問い合わせ・ご相談は、NPO法人HPをご覧ください。
【参考・出典】