認知症を早くみつける!東大生のブログ

認知症の早期診断・早期対応政策を、地方自治体職員の方や議員の方に提案しております。その他、市民団体・認知症関連団体・企業の方と協働して、認知症啓発活動にも取り組んでいます。政策企画やマニフェスト作成、議会質問、各種啓発活動のご相談はお気軽にinfo@policym.orgまで。NPO法人政策会議が活動母体です。

「安心して徘徊できる街」~地域ネットワークの先進事例・大牟田市の謎に迫る!~

「ちょっといいですか?」
部活帰りに見知らぬおばあさんに声をかけられた男子高校生。違和感を持った彼は話を進めた。
「家がどこかわからない。」
ということで、高校生はおばあさんを警察署まで送り届けた。実はこのおばあさんは徘徊中であり、男子高校生のこの行動によって徘徊中の彼女を助けた形となった。
有明新報平成23年6月22日付より)

見知らぬ人に積極的に関わるのは勇気がいることです。しかし、これを一般市民が「当たり前」にできる街が、今日紹介したい大牟田市です。

「安心して徘徊できる街」、「認知症にやさしい街」
福岡県大牟田市はこのようなフレーズで紹介されることが多く、認知症に関心のある方は耳にしたことがあるかもしれません。
今回のブログでは大牟田市の実態に迫り、全国で参考にできる点を取り上げます。

大牟田市は地域ネットワーク構築の先進事例である!

最初に大牟田市のデータを確認してみたいと思います。

基本データ(H26年4月時点)

 人口:約12万人
 高齢者率:約32%
 高齢者単身世帯数:約1万3000人
(※出典:大牟田市 http://www.city.omuta.lg.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=5&id=4010&sub_id=3&flid=2159

かつて炭鉱で栄えたこの街も、全国平均高齢化率の25%と比較して高齢化が進んでいます。
そこで大牟田市は、2002年から、高齢化を見据えて地域ネットワークの構築を中心として積極的に施策を行ってきました。
この地域ネットワーク構築が基礎となって、地域全体で認知症の方を受け入れ、支える体制が作られました。
地域全体の相互協力の機運はもちろん、認知症リテラシーが高まることで、周囲の理解が必要不可欠な認知症問題(特に徘徊に顕著)の緩和につながります。

以下では、地域ネットワークの構築を目的とする2つの特徴的な施策を見ていきます。

 

■小中学生から認知症の正しい理解を~認知症絵本教室~

地域ネットワーク構築の基礎として、まずは「正しく認知症への理解を深めること」が肝要です。周りの高齢者の違和感に気づきやすくなったり、街などで出会ったときに正しく適切な対応が出来るようになったりすることはもちろんのこと、市民全体に「認知症の方が住みよいまちづくりをする」インセンティブを与えることにもつながります。

国家レベルの認知症普及啓発政策としては、認知症サポーター養成講座の開設が実施されています。
その中で、大牟田市のサポーター養成講座総受講者数(重複含む)は約8000人(人口の約7%)であり、これは全国平均の約3%(H24年時点で約350万人)と比べても、非常に普及啓発が進んでいると言えます。

市民の積極的な受講は、市の尽力はもちろん、市民全体のリテラシーの高さの現れですが、それに一役かっているのが、小4から中2を対象に開催している「認知症に関する絵本教室」です。
この教室では、認知症の基礎概念や認知症の方への接し方などについて、絵本を使って理解を深めます。

f:id:dementiaPJ:20150207170532j:plain
(画像引用元:小中学校での認知症絵本教室のご紹介です。... - 大牟田市介護サービス事業者協議会 | Facebook
実際にこの絵本教室は一定の効果をあげています。
例えば、ある母親は、子供の祖母が認知症であることを子供に説明できずにいたところ、この絵本教室で認知症について勉強してきた子供自身から、
「おばあちゃんは認知症だったんだね?そうしたら優しくしないといけないね。」
と言ってきたというケースがあります。

「祖父母が認知症である」という子供も増え、彼らにとっても認知症は身近な問題となってきています。その中で、彼らに対しても認知症への理解を深めることは不可欠です。
大牟田市の絵本教室は、このような若年層もターゲットとした普及啓発の先進的な事例であり、これが市民全員を巻き込んだ地域ネットワークを構築する土台ともなっていると言えます。

■地域ネットワークで徘徊を安全に!~模擬徘徊訓練~

もう一つ紹介したいのが、徘徊模擬訓練です。
これは、認知症の方が行方不明になったという想定で、連絡を受けた関係者のネットワーク(警察・消防・中学校・タクシー会社・コンビニや商店など)が情報伝達を行い、市民も一緒になって徘徊役の方を探すという訓練です。 
年々増える訓練参加者は、平成25年度には約2000人を超え、市一丸となって訓練を実施しています。

f:id:dementiaPJ:20150207170501j:plain(画像引用元:http://www.city.omuta.lg.jp/hpKiji/pub/detail.aspx?c_id=5&id=6406&class_set_id=1&class_id=371
この訓練を通じて、徘徊への対応可能性が高まるのに加えて、認知症の方に直接・間接的に関わる人の連携を生み出し医療・介護の切れ目ない提供ももたらします。

2004年に自主組織から始まったこの訓練活動は、2007年から市が主催するようになると市全域に拡大し、直近の集計では、高齢者の保護件数が112件(2010年)から169件(2012年)と約1.5倍増加するなど、確かな実績をあげています。

さらに、この認知症の方のための地域ネットワークは、行方不明者の保護全般にその効果を発揮しています。例えば、平成18年度の訓練中には、子供が朝から家に帰ってこないというハプニングがあったのですが、訓練の目的を子供の捜索に切り替え、子供は無事保護されました。

■最後に

以上のように、大牟田市では①絵本教室を中心とする若年層への普及啓発②模擬徘徊訓練を活かし、地域ネットワークを上手く構築したことによって、認知症の方を受け入れ、支える体制が作られました。
確かな実績から、大牟田市のネットワーク政策は「大牟田方式」として全国の自治体にも採用が拡大しています。

私たちは今後も自治体主導型施策の一つのベンチマークとして、大牟田市の積極的な施策に注目していきます。 

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私たちは2013年の12月に結成された認知症政策ロビイングチームです。東大生を中心に、メンバー7名で「ロビイング」を通じて認知症問題に取り組んでいます。

厚労省の推計では「2025年には認知症の高齢者が700万人になる」と言われています。高齢者の約5人に一人が認知症になるというこの事実からも、認知症というイシューは日本にとって極めて重要な課題であることは間違いありません。

一方で、現在、認知症に対する具体的な政策や取り組み状況は各自治体でまちまちであり、決して十分とは言えません。そこに問題意識を持った私たちは、

「ロビイングによって、早期発見を中心とした包括的な認知症政策を、全国レベルで実現すること」

をミッションに掲げて活動しています。

現在は、全国レベルでの認知症政策展開の前段階として、地方自治体・議会への政策提言・政策提携・議会質問サポート等を行っています。
お問い合わせ・ご相談は、合同会社HPをご覧ください。


NPO法人政策会議 on Strikingly

 

 【参考・出典】

大牟田市 平成24年度老人保健健康増進等事業(大牟田市認知症ケアコミュニティ事業)報告書の公表について

まちで、みんなで認知症をつつむ~大牟田市の取り組み~(PDFファイル)

つなごう医療 中日メディカルサイト | 認知症徘徊者 地域一丸で保護 「大牟田方式」全国へ拡大

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