認知症を早くみつける!東大生のブログ

認知症の早期診断・早期対応政策を、地方自治体職員の方や議員の方に提案しております。その他、市民団体・認知症関連団体・企業の方と協働して、認知症啓発活動にも取り組んでいます。政策企画やマニフェスト作成、議会質問、各種啓発活動のご相談はお気軽にinfo@policym.orgまで。NPO法人政策会議が活動母体です。

一人32万円! リッチな認知症介護保険を実現したドイツの英断とは?【海外事例②:ドイツ】

前回、大変ご好評をいただきました「認知症政策海外事例シリーズ」。
第二回の今回は、日本も介護保険制度を作るさいにモデルにしたと言われる『ドイツ』に焦点を当てていきます。

この記事を読むにあたっては、私たちが海外事例を取り上げるに至った経緯もまとめた第一回記事も、是非ご覧ください。

高齢者同居率6%!? 北欧流認知症介護とは? 【海外事例①:デンマーク】 - 認知症を早くみつける!東大生のブログ

 

認知症高齢者へのリッチな補助。ドイツの高齢者事情

「ドイツって、どんな国なの?」
この質問に答えるべく、まずは恒例のデータ確認から始めましょう。

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基本データ
面積:35.7万平方キロメートル(日本の94%)
人口:8,094万人
首都:ベルリン
高齢者率:20.8%(日本に次ぎ世界第2位)
認知症診断数:140万人
認知症高齢者特別手当金額:2400ユーロ
GDP:2兆4820億ユーロ(日本の約0.8倍)
出典:外務省(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/germany/data.html#section1)


ドイツと聞くと、ビールやソーセージなどを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
ドイツは世界有数の工業国、貿易他国でもありGDPの規模では欧州内で第一位です。
一方で、高齢者率は日本に次ぎ世界第2位であり、日本と同じく高齢化対策に力を入れている国でもあります。
4人に1人が高齢者となったドイツ国内では高齢者も自立した生活を求められ、デンマークに比べて自力救済の色が強くなっています。

しかし、認知症政策に関しては少し違った様相を呈しています。
今回の基本データで着目すべきは、認知症高齢者特別手当の金額です。
 認知症高齢者特別手当金額:2400ユーロ (約320,000円)
これは中度以上の身体介護を必要とする認知症高齢者に対して支払われる助成金をさします。
日本と比較すると、例えば成田市では年間156,000円ですので200%近くの金額となっています。(※自治体ごとに金額は異なります)
ドイツでは、認知症高齢者に対して手厚い補助が用意されているのです。
そんなドイツの認知症政策事情を見ていきましょう。
 

認知症高齢者に年間32万!ドイツが誇る充実した介護給付金

先ほども述べた通り、ドイツでは、他国と比べて非常に高い手当が認知症高齢者に対して補償されます。

2008年に実施された「介護改革2008」では、認知症高齢者向けの特別手当は月額最高200ユーロ(基本給付額100ユーロ+ケースや等級に応じた追加額)、年額最高2400ユーロまでとすることが決定されました。
日本円にして約320,000円。個人に国が保証する金額としては大金です。

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(画像引用元:http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20110926-OYT1T00733.htm?from=main7)

この金額だけ見ても、ドイツの給付支援策は先進的といえます。しかし、それ以上に優れているのは、世界に先駆けて給付金を補償する対象として認知症高齢者を取り入れたことなのです。この説明のため、まず介護保険制度と制定当時の時代背景を理解する必要があります。

認知症高齢者は給付金をもらいづらい?介護保険制度のジレンマと、ドイツの英断

そもそも介護保険制度とは一般に、「高齢者を社会全体で支えあう仕組みを創設すること」を目的として、高齢者の自立支援・高齢者のサービス利用支援を促す制度です。
しかし、介護保険制度が整備された当時では『認知症』という概念が今ほど注目されておらず、かつ『認知症』に対して行うべき支援方法も確立されていませんでした。これらが背景となり、介護保険制度がカバーする範囲から『認知症』は漏れてしまったのです。
そのため、従来の介護保険制度では本来カバーすべきである認知症高齢者に対し、適切な支援を行うことができませんでした。

介護保険制度下において認知症高齢者は、介護等級(対象者がどのレベルで介護を必要とするかの指標)が低く評価されてしまうのです。
その原因は、介護保険の認定基準が、身体能力(日常の生活動作)のレベルに応じて評価されることにありました。
認知症は、症状が進行していても、日常生活はこなせることが多く、身体能力基準では健康と評価されてしまうことが多いのです。

ドイツはこの問題を解決すべく、2002年「介護給付補完法」を施行しました。
認知症高齢者や知的障害者精神障害者など身体能力では症状の重度を判断しづらい対象者に対して、要介護度に関わらず年間460ユーロ(約6万円)を上限とした給付を行うようになったのです。
先ほど述べた「介護改革2008」は、この介護給付補完法で指摘された不十分な支給額をさらに補填するものでした。
認知症高齢者が十分な支援を受けられなかった当時において、介護保険制度の支給範囲を拡大し金額まで潤沢にしたドイツの政策は、非常に画期的かつ先進的な政策だったのです。

■まだまだある。ドイツの優れた認知症支援制度

ドイツの認知症に関する支援制度で優れているのは、認知症高齢者に対するものだけにとどまりません。認知症高齢者の介護者に対する支援制度も優れているのです。

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(引用元:http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/kaigo/handbook/service/c078-p02-02-Kaigo-31.html)

先ほど述べた「介護改革2008」では、介護休業制度の導入も併記されました。
以下の権利が保証されることで、要介護者を抱える家族が認知症高齢者と、より潤沢な時間を過ごすことが可能となったのです。

  • 継続して6ヶ月を上限とした介護休業取得
  • 介護休業とは別の、最長10日間の短期休暇取得

さらに、休業中の給与についても手厚い補償が設けられています。

  • 休業中支払われない給料への、社会保険からの補てん
  • 休業中における公的年金保険料の、介護金庫による代替

日本の場合、

  • 介護休業の期限は最大93日間=ドイツの半分
  • 休業中の公的年金保険料は補償されない

など、ドイツに比べて未熟な点が目立ちます。

■未熟な日本の制度、誇るべき日本の制度

以上述べてきたように、ドイツの認知症支援制度は先進的で、日本も見習うべき点が多くあります。
しかし、日本の制度にも強みといえる部分が当然あります。
例えば、ドイツの介護保険では見守りや声かけといった認知症初期段階の患者に対するケアは手薄であると指摘されています。
その点日本は、見守りや声かけといったサービスは自治体によって展開され、例えば大牟田市などでは一定の成果も出しています。
ドイツの政策から、日本が見習うべき部分、優れている部分をしっかりと把握して、日本の介護保険制度をより良いものにしていきたいものです。

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私たちは2013年の12月に結成された認知症政策ロビイングチームです。東大生を中心としたメンバー7名で、認知症問題に取り組んでいます。

厚労省の推計では「2025年には認知症の高齢者が700万人になる」と言われています。高齢者の約5人に1人が認知症になるというこの事実からも、認知症というイシューが日本にとって極めて重大であることは疑いようがありません。

一方で、現在、認知症に対する具体的な政策や取り組み状況は各自治体でまちまちであり、決して十分とは言えません。そこに問題意識を持った私たちは、

「ロビイングによって、早期発見を中心とした包括的な認知症政策を、全国レベルで実現すること」

をミッションに掲げて活動しています。

現在は、全国レベルでの認知症政策展開の前段階として、地方自治体・議会への政策提言・政策提携・議会質問サポート等を行っています。
お問い合わせ・ご相談は、合同会社HPをご覧ください。