認知症を早くみつける!東大生のブログ

認知症の早期診断・早期対応政策を、地方自治体職員の方や議員の方に提案しております。その他、市民団体・認知症関連団体・企業の方と協働して、認知症啓発活動にも取り組んでいます。政策企画やマニフェスト作成、議会質問、各種啓発活動のご相談はお気軽にinfo@policym.orgまで。NPO法人政策会議が活動母体です。

老後の資産を守れ! ~成年後見制度とその問題点~

あなたが一生懸命に貯めてきたお金が、突然ごっそりと無くなったらどうしますか?

 

「母が山林売買で約700万円を支払った。契約書はあるが母は理解していない」

「祖母が、見知らぬ人に宅配便で700万円を送った。投資勧誘のパンフレットが残っているが、契約書や証書もない」

老後の資金は、65歳の退職時点で少なくとも3000万円は必要であると言われます。
それを踏まえれば、700万の損失は致命的です。

高齢者の消費者トラブル、認知症患者ら1万600件 :日本経済新聞

「老後の蓄え」、「資産運用」、「遺産相続」・・・。

高齢社会の進展と共に、最近は、高齢者の「お金」にまつわる話題をよく目にするようになりました。
その中で「老後の金銭的な不安」を言葉巧みに煽り、高齢者のお金を奪おうとする悪徳業者があとを絶ちません。
ひどい話ですが、彼らにとって、認知症の方は絶好のカモになります。「判断能力の不十分さ」につけこむのです。

実は、このような判断能力低下によるトラブルから認知症の方を守る制度として、成年後見制度というものがあります。今回は、政策・制度的観点から認知症問題に迫る一つのアプローチとして、この「成年後見制度」について考えたいと思います。
 

成年後見制度とは?

成年後見制度とは、認知症知的障害精神障害などの理由で精神的能力・判断能力が不十分になった人を法律面や生活面で保護・支援する仕組みです。
具体的には、当事者に対して「後見人」という形で支援者をつけ、その生活をサポートします。

介護保険制度が「身体的能力が不十分になった人を支援する」のに対し、
成年後見制度は「精神的能力・判断能力が不十分になった人を支援する」ため、
これら二つの制度は、しばしば「高齢社会を支える車の両輪」だといわれます。 

成年後見制度の種類

成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。

両者の大きな違いは「いつ後見人を決めるか」という部分です。

「法廷後見制度」が既に判断能力が衰えている人に対して、裁判所が後見人を決定するのに対し、「任意後見制度」では、被後見人が元気なうちに自ら後見人を決めておくことが出来ます。

 

後見人の役割は、被後見人の判断能力の低下具合に応じて「後見」「保佐」「補助」の3種類に分類されます。

また、後見人そのものも、バックグラウンドに応じて「親族後見人(親族がなる場合)」と「専門職後見人(弁護士や司法書士社会福祉士がなる場合)」、「市民後見人(地域の市民がなる場合)」の3種類に分類されます。

成年後見制度における後見人の職務

後見人の主な職務は

  1.  不動産や預貯金などの財産管理
  2.  身のまわりの世話のための介護サービスや施設への入所に関する契約締結
  3.  遺産分割の協議の代理
  4.  悪徳契約の被害防止のための契約解消に関わる権利の執行

等です。判断能力が不十分になった人の生活をサポートします。

特に認知症の方は、介護サービス利用をはじめとした「契約」を締結する機会が非常に多いため、積極的に利用していくことが望まれます。 
 

■利用が進まない、成年後見制度。

ここまで見てきたように、成年後見制度は、認知症高齢者を支えるために必要不可欠な制度ですが、「必要性に対して利用している人が少ない」事が一番の課題です。

 

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成年後見制度の利用人数は、2013年末の時点で17万6564人。これは前年比で1万人増かつ過去最高ですが、利用率は非常に低いです。

2012年末時点での認知症高齢者は約462万人であり、知的障害者は約70万人、精神障害者認知症除く)は約270万人と推定されます。そのため、2013年末時点での成年後見制度利用者の半分が認知症高齢者だと仮定しても、利用率はわずか約2%に留まります。

 

もちろん、認知症高齢者の全員が重度の認知症で、成年後見制度の利用に喫緊の必要性があるという訳ではありません。

しかし、将来的に認知症になる可能性がある軽度認知障害(MCI)の高齢者は約400万人もおり、認知症高齢者を含めると、「高齢者の約28%が成年後見制度の必要性がある」というのもまた事実なのです。

 

■「めんどくさい…」 成年後見制度の利用が進まない理由

利用が進まない理由はいくつか考えられますが、一番は成年後見制度の利用のしにくさにあります。

 

現在、成年後見制度の申立から後見人の決定までには、手続き上の問題で3ヶ月〜10ヶ月かかります。

その結果、利用者には「めんどくさいから、まだ申立をしなくてもいい」、「時間がかかるってことは手続きが複雑そう」といった感情が生まれ、制度の積極的な利用が進んでいないのです。

 

その証拠に、2013年度中に成年後見制度利用を申し出た人の目的として最も多かったのは「被後見人の預貯金の管理・解約」だったというデータがあります。

これは、十分な判断能力がない預貯金利用者に対して、金融機関が成年後見制度の利用を求めるからであり、利用者の多くが「能動的ではなく、必要に迫られて受動的に制度を利用している」ということがよく表れています。

 

 ■多くの問題を抱える、成年後見制度。

また、成年後見制度自体にも多くの問題があります。

 

一つが、後見人が代理権限を悪用し、不正や資産の私的使用をすることも出来てしまう点です。

  1. 後見人の代理権限の範囲が広いため、(親族後見人の場合は特に)被後見人の資産の使い込みが起きやすい。
  2. 家庭裁判所の後見人チェック体制に限界があり、後見人が代理権限の過剰利用したり、悪用したりするのを取締りにくい
  3. 後見人の不正を監視する後見監督人が置かれているが、後見監督人には法的に不正を取り締まる権限がない(事実上、無力)。

もう一つが、後見人の待遇/育成環境の整備が進んでいない点です。

  1. 後見人の職務にかかる経費は自己負担になる事が多く、統一した報酬体系が存在しない
  2. 後見人候補者の育成…身寄りがなく金銭的に余裕のない人にとって、市民後見人の育成は今後急務になるが、育成を支援する仕組みが整っていない

 

近年は親族後見人の割合が減少(2000年,91%→2013年,42%)し、専門職後見人(2000年,9%→2013年,55%)と市民後見人(2000年,0%→2013年,3%)の割合が増加しています。

 

その背景には、単身世帯や身寄りのない高齢者の増加により、後見人となるべき親族が見当たらないケースが増えていることがあるとみられており、彼らに代わる専門職/市民後見人の確保が急務とされています。

 

しかしながら、上記のように後見人を取り巻く環境が良いものとは言えず、「敬遠され、専門職/市民後見人の数が頭打ち気味になっているのが現状です。

 

 成年後見制度の問題点としては、その他「成年の被後見人(制度利用者)には選挙権が与えられないが、それは人権上問題なのではないか?」と指摘する人もいます。

 

成年後見制度の今後

認知症高齢者増加と共に、成年後見制度は今後ますます重要になってきます。

その中で「これからの成年後見制度はどうあるべきか」ということを腰を据えて考えていかなければなりません。

 

私たち自身はまだ政策案として固めることは出来ていませんが、目指すべきは

  • 早期に成年後見人となってくれる人を確保し、いかにして切れ目のない闘病体制を敷いていくか
  • 「高齢者が安心して暮らせるように見守る」という本来の目的に立ち返り、地域の人々・繋がり・体制を巻き込むような後見人制度へとシフトさせていくこと

が重要なのではないかと考えています。

 

引き続き、調査研究を行っていきたいと思います。

 

 

 

【参考・出典】

高齢者の消費者トラブル、認知症患者ら1万600件 :日本経済新聞

関連する制度や事業 | 成年後見制度とは | 公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポート

活動目的 | プロジェクト紹介 | 東京大学 政策ビジョン研究センター 市民後見研究実証プロジェクト

法務省:成年後見制度〜成年後見登記制度〜

家庭問題情報誌「ふぁみりお」第44号 成年後見制度の問題点 ―発足以来8年の実績から―